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続こんぶの日記 KOMBU's diary from Sydney

大きな巨人と、小さな巨人と

2009年8月30日(日)

日曜日の朝、寝ぼけまなこでテレビをつけたら、BBキングのライブが始まったところだった。朝からブルースかあ〜さすがシドニー〜と思いながら見始めたのだが、私は瞬く間に、彼のとりこになってしまった。彼は、大きなお腹の上にギターを乗せて、余裕の笑顔を浮かべながら、貫禄たっぷりにそれを操っている。この人がking of Blues と言われる所以が、ブルースに関して無知な私にもわかったような気がした。

ライブは、彼のユーモアたっぷりのおしゃべりも交えて軽やかに進んで行く。「もう1曲ひいてもいい?」「もちろーん!」といった観客とのやりとりがおもしろい。テネシーのメンフィス、ライブの観客のほとんどが、老若男女の白人だということに私は驚いた。巨匠の技は、時代と人種を超えるのだなと改めて思った。

ライブを見ながら、私は神戸で助産所を営む毛利種子先生のことを思い出した。キングから醸し出されているブルースの魂のオーラは、種子先生の産婆の神髄のオーラと似ていると感じたからだ。それに、キングと種子先生は同年代だと思う。

助産の世界では種子先生を尊敬し、敬愛する助産師は多いが、私もそのひとりだ。先生が、ロンドンで開かれた国際助産学会に着物で参加したときには、日本の助産の技を知りたい、と世界中の助産師に囲まれたという。

幸運なことに、私は大学院時代に、先生の助産所で6週間ほど実習する機会を得た。助産師の技というと、どのように赤ちゃんをとりあげるかといったことに、目が向きがちだ。しかし先生は、「赤ちゃんはな、自分でこの世に出たいと思ったら、自分ででてくるんや。助産婦は、赤ちゃんが落っこちないように、やさしく手をそえているだけでええんよ。赤ちゃんの邪魔をしたらあかんよ。」とおっしゃっていた。「私は、毎日毎日同じことをしてきただけやからねえ。」小さな巨人の偉大な言葉は、今でも私の胸に残っている。

先生は、毎朝一番に起きて、お産にこれから望む産婦さん、お産を終えた産婦さんや夜勤明けのスタッフのために、芋粥をこしらえていた。学生の私たちが、朝の床の雑巾がけを終えると、「きれいになったねえ、どうもありがと。」と声をかけて下さる。赤ちゃんの布おむつにも、一枚一枚心をこめてアイロンをかける。先生は、生活そのものをとても大切にされていた。お産というものは、生活の一部ということを、先生の背中から学んだ。

そんなことを思い出しているうちに、キングのライブは終盤を向かえている。大きな巨人もきっと、毎日毎日ギターを引き続けてきたのだろう。ライブの最後に、ギターのピックを観客にばらまくキングは、まるで、打ち出の小槌をふる七福神のようだ。それに、キングの笑顔は仏様みたい。

そういえば、助産所で産まれた赤ちゃんも、仏様みたいに後光が射していたことを思い出す。キングのギターを、じっくりとまた聞きたい。



by gonzalesK | 2009-09-02 16:33 | Life in Sydney

シドニーの青い空と広い海のふもとで繰り広げられる日常をこんぶ風味でお伝えします
by gonzalesK
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