秋雨のふる夜に その2
2009年4月23日(木)
彼のお母さんは、数年前にN病院で大きな手術を受け長期間入院していた。N病院に近づくと、彼は「またお世話になるよ、僕の家族をまたひとり連れて来たよ!」と車の中からN病院に話しかけていた。
救急外来でトリアージ・ナース(患者の救急度を判断する訓練を受けたナース)から問診などを受け、受付で長いこと待ち、救急外来のベッドに横たわることができたときは、もう日付が変わっていた。
ベッドでうとうとしていると、ナースが一人やって来て問診し、血圧などをチェックした。気だてのよさそうなアジア系のナースだった。「どこのご出身ですか?」と伺うと「ビルマよ。」といった。私が唯一知っているビルマ語、「ミンガラーバ!(こんにちは)」というと、彼女は「グッドガール!」と笑った。彼が「僕はタイ出身だよ。お隣だね。」と言った。彼女が自身の出身を、“ミャンマー”とではなく、“ビルマ”というところに彼女の背景があるように思えた。母国の状況を考えると、彼女の人生にもきっといろいろなことがあったのだろうな、という思いがよぎる。
彼女が去り、しばらくしてから、インターンの若い医師がやってきた。ドラマのERを思い起こさせるユニフォームを着て、はつらつとしている。彼女も私にいろいろ問診し始めた。「それで、昨日の夜に足の点状出血に気がついて、クリニックに採血に行ったら血小板が低かったということね?2003年にITPを発症したときは、かぜをひいていたということだけど、今回は何か気になることはあった?」と彼女が私に聞いた。私の代わりに彼が、「彼女は、10日ほど前に親戚のバーベキューに行って、ひどい胃腸炎になったんだよ。僕もGPだし、病院には行かないで何とか治ったけど。それとITPと関係があるかどうかはわからないけど。」と答えた。彼女は、「そうですか。先ほど、血液内科の医師から、プレドニゾロン50mg内服の指示を受けています。それで様子を診ましょう。病棟のベッドは空かないと思うので、朝までここで過ごすことになるかもしれません。」ということだった。
先ほどのビルマ人ナースが私の採血をし、血管確保の留置針を入れた。一回目は失敗して、めちゃくちゃ痛かった。私が採血する側だったころのことを思い出し、今まで失敗した採血の人本当にごめんなさい、と懺悔させられるような痛さだった。それでもビルマ人ナースの面子を重んじ、私は精一杯の笑顔をつくった。
医師は、「夜中にステロイドを飲むと興奮して眠れなくなってしまうかもしれないけど、まあ飲んで!」と言っていた。ステロイドを内服し、疲れもあったのか、私はすぐにうとうとし始めた。彼はもう少し私に付き添ってくれるという。
そのうち白人の男性ナースがやって来た。スキンヘッドで半袖の白衣から、花柄の入れ墨がのぞいている。街で出会ったら、ぶつかりたくないタイプだ。彼は私の顔を覗き込み、「オゲンキデスカ?ニホンジンネ?」と日本語で言った。 元気だったらここにはいないよ、と思わずつっこみたくなるのを押さえて、私は、「日本語話すのですか?」と聞いた。入れ墨ナースは「ヘイタイデニホンニイマシタ、フジサンキレイナトコロ!」と日本語で話した。うとうとしていた彼も起きて、「へえ、オーストラリアの軍隊で日本にいたのですか?」と入れ墨ナースに問う。ナースは、「いいえ、私はアイルランド人で、アイルランドの軍隊にいました。今は普通のナースだけどね。」なぜ、アイルランド人の兵隊さんが、日本にいるのだろうか?いろいろ聞いてみたいけれど、今日のところはやめておこうと思った。
入れ墨ナースは、私の腕に巻かれている自動血圧計測定のマンシェットを見て、「ぶかぶかじゃないの!小児用の方がいいかもね。」と言いながら小児用のマンシェットに巻き変えた。血圧測定をしたナースは、「ぴったり、ぴったり」と満足そうであった。私はそのとき、「オーストラリアのナースはゲイの人が多くてね。皆やさしいし、とても良いケアを提供するのよ。」という知人から聞いた話を思い出した。入れ墨ナースの素朴な笑顔を垣間みながら、私は再び眠りに落ちていった。
彼のお母さんは、数年前にN病院で大きな手術を受け長期間入院していた。N病院に近づくと、彼は「またお世話になるよ、僕の家族をまたひとり連れて来たよ!」と車の中からN病院に話しかけていた。
救急外来でトリアージ・ナース(患者の救急度を判断する訓練を受けたナース)から問診などを受け、受付で長いこと待ち、救急外来のベッドに横たわることができたときは、もう日付が変わっていた。
ベッドでうとうとしていると、ナースが一人やって来て問診し、血圧などをチェックした。気だてのよさそうなアジア系のナースだった。「どこのご出身ですか?」と伺うと「ビルマよ。」といった。私が唯一知っているビルマ語、「ミンガラーバ!(こんにちは)」というと、彼女は「グッドガール!」と笑った。彼が「僕はタイ出身だよ。お隣だね。」と言った。彼女が自身の出身を、“ミャンマー”とではなく、“ビルマ”というところに彼女の背景があるように思えた。母国の状況を考えると、彼女の人生にもきっといろいろなことがあったのだろうな、という思いがよぎる。
彼女が去り、しばらくしてから、インターンの若い医師がやってきた。ドラマのERを思い起こさせるユニフォームを着て、はつらつとしている。彼女も私にいろいろ問診し始めた。「それで、昨日の夜に足の点状出血に気がついて、クリニックに採血に行ったら血小板が低かったということね?2003年にITPを発症したときは、かぜをひいていたということだけど、今回は何か気になることはあった?」と彼女が私に聞いた。私の代わりに彼が、「彼女は、10日ほど前に親戚のバーベキューに行って、ひどい胃腸炎になったんだよ。僕もGPだし、病院には行かないで何とか治ったけど。それとITPと関係があるかどうかはわからないけど。」と答えた。彼女は、「そうですか。先ほど、血液内科の医師から、プレドニゾロン50mg内服の指示を受けています。それで様子を診ましょう。病棟のベッドは空かないと思うので、朝までここで過ごすことになるかもしれません。」ということだった。
先ほどのビルマ人ナースが私の採血をし、血管確保の留置針を入れた。一回目は失敗して、めちゃくちゃ痛かった。私が採血する側だったころのことを思い出し、今まで失敗した採血の人本当にごめんなさい、と懺悔させられるような痛さだった。それでもビルマ人ナースの面子を重んじ、私は精一杯の笑顔をつくった。
医師は、「夜中にステロイドを飲むと興奮して眠れなくなってしまうかもしれないけど、まあ飲んで!」と言っていた。ステロイドを内服し、疲れもあったのか、私はすぐにうとうとし始めた。彼はもう少し私に付き添ってくれるという。
そのうち白人の男性ナースがやって来た。スキンヘッドで半袖の白衣から、花柄の入れ墨がのぞいている。街で出会ったら、ぶつかりたくないタイプだ。彼は私の顔を覗き込み、「オゲンキデスカ?ニホンジンネ?」と日本語で言った。 元気だったらここにはいないよ、と思わずつっこみたくなるのを押さえて、私は、「日本語話すのですか?」と聞いた。入れ墨ナースは「ヘイタイデニホンニイマシタ、フジサンキレイナトコロ!」と日本語で話した。うとうとしていた彼も起きて、「へえ、オーストラリアの軍隊で日本にいたのですか?」と入れ墨ナースに問う。ナースは、「いいえ、私はアイルランド人で、アイルランドの軍隊にいました。今は普通のナースだけどね。」なぜ、アイルランド人の兵隊さんが、日本にいるのだろうか?いろいろ聞いてみたいけれど、今日のところはやめておこうと思った。
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by gonzalesK
| 2009-04-29 21:35
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