冷夏のシドニーより
2011年12月2日(金)
青くて高い空が、シドニーに夏の訪れを知らせている--- とさわやかに思ったのは数日前、今年は冷夏らしく、肌寒い雨の日々が続いている。クイーンズランドの洪水の影響で、ずっと高値をつけていたバナナは、やっと毎朝食べられるくらいに価格が下がった。さらに、今年はマンゴーが安くておいしい。タイのマンゴーよりも少し酸味がある感じで、胸がきゅんとなる味をしている。
先日、最後の課題を提出し、春学期が終了し、これから長い夏休みに入る。妊娠からお産とフォローしている妊婦さんがいるので、時々は病院に顔を出さなければいけないが、山のような課題から解放されたと思うとうれしい。今学期も4教科学び6単位ずつ取得した。
Midwifery Practice: Supporting Women
授業では、主にローリスクの分娩介助を勉強したり、産後のケアについて講義を受ける。演習では、日本と同じように模型を使って、お産の介助を学ぶ。日本では分娩時の会陰保護(会陰:膣と肛門の間の皮膚のこと)は、まだまだ主流だと思う。こちらでは、会陰保護のメリットが明確でないので、hands on(手を添える)でもhands off (手を添えない)でもどちらでもいいよ、という感じだ。切れるときはどんなことをしても切れてしまう、特に高齢出産や産婦の栄養状態など助産師の技術以外の要素が影響すると講師たち。これに関してはまだまだresearchが必要なようだ。
ただ、clinical expertise −こちらで何人もの助産師から「アジア人女性の会陰は、白人女性と比べて短い。だから、お産のときに、ざくっと深い傷が入りやすい。。。」と気になることを聞いた。アフガニスタン人の同級生は、妊娠中にバターを多く摂取するとお産のときに会陰がぐーんと伸びるよ、と言っていたが、民族的、民俗的なものも影響あるかもしれない。
この授業には、5週間の病院実習が含まれていた。前の学期と同じように、指定の公立病院に行って妊婦検診、お産の立ち会い、産後入院棟で産婦さんのお世話をした。シドニーでは、妊娠した女性の9割が、費用が無料である公立病院で妊婦検診を受けてお産をする。州の公立病院には、ガイドラインがあり、そのガイドラインにそってケアをすすめていく方針がある。例えば、初診のDVスクリーニング、お産のときにローリスクの妊婦には分娩監視装置をつけないで、ドップラーで間欠的に胎児心音を聴取する、などである。
こういったガイドラインは、research evidence に基づいて作られている。東京の下町の病院で働いてきた私にとっては、このガイドラインは画期的なことのように思えた。日本のフェミニスト運動の先駆的な役割を果たしてきた女医が院長だったので、妊娠期のDVスクリーニングは、都内でも先駆的に行っていたものの、まだまだ入院時の分娩監視装置は当たり前で、子宮口が全部開いてからも再び分娩監視装置をつける、という「慣習」は残っていた。ローリスクの産婦に分娩監視装置をつけて、赤ちゃんの心音を継続的に測定することは、赤ちゃんの死亡率や脳性麻痺を減少させない(むしろ不必要な帝王切開を増やすなどharm-害が懸念される)というresearch outcomes が出てから何年も経つのに、である。
州で統一してこういったガイドラインを作る(表向きの)目的は、女性の出産における満足度を高め、また不必要な帝王切開の数を軽減させるということだ。そして真の目的は、州の医療費を削減することだろう。目的はいろいろあるにせよ、公立病院というMASSのケアの提供者が、よくやっていると思う。
経験豊富なおばちゃん助産婦は、「私はお産のときにこの監視装置をつけないと不安でね、エデュケーターには内緒よ!」なんていいながら、ガイドラインにそってケアをすすめていないし、そんな場面に多々と遭遇する。しかし、何とか現場とresearch evidence のギャップを縮めようと奮闘している助産師も多くいるのだ。それは、normal vaginal delivery −なるべく医療介入をしないお産−を促進することだから、女性の身体にとってもメリットが多くある。
シドニーには、数えるほどの公立病院しかないからこれが可能だけれど、東京に星の数ほどある病院が、こういった統一されたガイドラインを作ることは、不可能に近いだろうなと思ってしまうのであった。
あとの3教科、、、つづく
青くて高い空が、シドニーに夏の訪れを知らせている--- とさわやかに思ったのは数日前、今年は冷夏らしく、肌寒い雨の日々が続いている。クイーンズランドの洪水の影響で、ずっと高値をつけていたバナナは、やっと毎朝食べられるくらいに価格が下がった。さらに、今年はマンゴーが安くておいしい。タイのマンゴーよりも少し酸味がある感じで、胸がきゅんとなる味をしている。
先日、最後の課題を提出し、春学期が終了し、これから長い夏休みに入る。妊娠からお産とフォローしている妊婦さんがいるので、時々は病院に顔を出さなければいけないが、山のような課題から解放されたと思うとうれしい。今学期も4教科学び6単位ずつ取得した。
Midwifery Practice: Supporting Women
授業では、主にローリスクの分娩介助を勉強したり、産後のケアについて講義を受ける。演習では、日本と同じように模型を使って、お産の介助を学ぶ。日本では分娩時の会陰保護(会陰:膣と肛門の間の皮膚のこと)は、まだまだ主流だと思う。こちらでは、会陰保護のメリットが明確でないので、hands on(手を添える)でもhands off (手を添えない)でもどちらでもいいよ、という感じだ。切れるときはどんなことをしても切れてしまう、特に高齢出産や産婦の栄養状態など助産師の技術以外の要素が影響すると講師たち。これに関してはまだまだresearchが必要なようだ。
ただ、clinical expertise −こちらで何人もの助産師から「アジア人女性の会陰は、白人女性と比べて短い。だから、お産のときに、ざくっと深い傷が入りやすい。。。」と気になることを聞いた。アフガニスタン人の同級生は、妊娠中にバターを多く摂取するとお産のときに会陰がぐーんと伸びるよ、と言っていたが、民族的、民俗的なものも影響あるかもしれない。
この授業には、5週間の病院実習が含まれていた。前の学期と同じように、指定の公立病院に行って妊婦検診、お産の立ち会い、産後入院棟で産婦さんのお世話をした。シドニーでは、妊娠した女性の9割が、費用が無料である公立病院で妊婦検診を受けてお産をする。州の公立病院には、ガイドラインがあり、そのガイドラインにそってケアをすすめていく方針がある。例えば、初診のDVスクリーニング、お産のときにローリスクの妊婦には分娩監視装置をつけないで、ドップラーで間欠的に胎児心音を聴取する、などである。
こういったガイドラインは、research evidence に基づいて作られている。東京の下町の病院で働いてきた私にとっては、このガイドラインは画期的なことのように思えた。日本のフェミニスト運動の先駆的な役割を果たしてきた女医が院長だったので、妊娠期のDVスクリーニングは、都内でも先駆的に行っていたものの、まだまだ入院時の分娩監視装置は当たり前で、子宮口が全部開いてからも再び分娩監視装置をつける、という「慣習」は残っていた。ローリスクの産婦に分娩監視装置をつけて、赤ちゃんの心音を継続的に測定することは、赤ちゃんの死亡率や脳性麻痺を減少させない(むしろ不必要な帝王切開を増やすなどharm-害が懸念される)というresearch outcomes が出てから何年も経つのに、である。
州で統一してこういったガイドラインを作る(表向きの)目的は、女性の出産における満足度を高め、また不必要な帝王切開の数を軽減させるということだ。そして真の目的は、州の医療費を削減することだろう。目的はいろいろあるにせよ、公立病院というMASSのケアの提供者が、よくやっていると思う。
経験豊富なおばちゃん助産婦は、「私はお産のときにこの監視装置をつけないと不安でね、エデュケーターには内緒よ!」なんていいながら、ガイドラインにそってケアをすすめていないし、そんな場面に多々と遭遇する。しかし、何とか現場とresearch evidence のギャップを縮めようと奮闘している助産師も多くいるのだ。それは、normal vaginal delivery −なるべく医療介入をしないお産−を促進することだから、女性の身体にとってもメリットが多くある。
シドニーには、数えるほどの公立病院しかないからこれが可能だけれど、東京に星の数ほどある病院が、こういった統一されたガイドラインを作ることは、不可能に近いだろうなと思ってしまうのであった。
あとの3教科、、、つづく
by gonzalesK
| 2011-12-08 19:44
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